オイなぁブービー。これは誘ってんのか? 晴天。天より降り注ぐ光はセレス海を輝かせていた パイロットの控え室 開け放った窓から吹き抜ける風は心地いい 肌に触れる空気は少々蒸し暑いが その中で、約3人――ナガセ、グリム、そしてチョッパーの注目を集める、一人の青年 その青年は深い眠りに落ち、その視線に気がつかぬまま夢の中にいる 眠っている。ただそれだけなら誰も気にはしない――いや、そもそもその青年が昼間に寝るのは珍しいから多少は注目を集めていたかもしれない 「ブレイズったら……」 「可愛いですねぇ」 「オイオイ……」 青年―ブレイズは服を抱きしめながら寝ていた 特別豪華な服というわけではない。男には似合わぬ可愛い服でもない 彼が抱きしめている服はオーシアの空軍服だ それを抱きしめてすやすやと寝ている しかしその服は彼のものではなく―― 「幸せ者ですねぇ、チョッパー少尉」 ――チョッパーの服 グリムはブレイズの寝顔に笑みを浮かべながらチョッパーに言う ブレイズはそれを抱きしめてすやすやと健やかな寝息を立てている 周りは微笑ましく見守っていたが、一人だけ違っていた そう、服を抱き枕代わりにされているチョッパーだ ――ブービー。お前はどれだけやり手なんだ?そのミサイルの威力並みの可愛さに俺が撃墜されそうだ 俺がお前を撃墜するつもりだったのに。そんなくだらないことを思っていると、いつの間にかナガセとグリムがいなくなっていた ブレイズを起こすまいと気を使ったのか、それともにやけているチョッパーが気持ち悪かったのか それとも恋仲にある両方に気を使ったのか チョッパーは屈み、ソファーの上で寝こけているブレイズの顔を覗き込む 余りにも無防備なその姿 誘っているようにしか見えない。そういうことでOKなんだなブービー、と勝手な解釈をする 邪魔そうに額にかかる髪を除けてみる ん、と少し身を捩ってみるだけで起きる気配はない いい加減起きろ。チョッパーは切実にそう思っている。何故なら本来夜に牙を剥く獣が目覚めそうだから 「……いい加減起きないと俺のミサイルがお前を襲うぜ?」 昼間っから何言っている そういう怒声を期待してみるも、どうも彼は目覚めない よぅブービー。流石の俺の理性もいい加減ぷっつんしそうだ 目の前にご馳走を見せられておとなしくしていられるほど、躾けられた犬じゃないんだぜ? ブレイズの顔に、自分の顔を近づけたところ 「…………」 「…………」 目がかち合った 「……なにをしている。ダヴェンポード少尉。25字以内で答えろ」 「……あーえー、これはですね、隊長」 畜生畜生起きやがった!いや、起きてよかったのかいやいやこれはやばいタイミングで起きやがった! しかもKissする3秒前っていうキャッチフレーズが似合いそうなときに これ以上ない最悪のお目覚めの時間にチョッパーはしどろもどろ じーっとみつめてくる視線に僕はもう負けてしまいそうです隊長。あ、そういやこいつが隊長だった 「何故言葉に詰まる、チョッパー。応答しろ」 「えー……素直に述べると夜這いならぬ昼這いへと洒落込もうと……」 「……ブレイズ、FOX4!」 ごっ! 「いってぇぇぇっ!」 ブレイズの頭突きがチョッパーのあごにヒットし、まともに食らったチョッパーは痛みに身悶える それを煩い、と一蹴し寝ていたソファーから起き上がる 「何を考えているんだお前は!馬鹿かお前馬鹿か!」 「なにおぅ自ら餌になったくせによぅ!」 「はぁ?!」 「お前よ、男として考えてみろ。自分の服をそれはそれは愛しそうに抱きしめられながら寝られたら獣になるっての!」 「なっ俺がいつそんなことっ」 「お前が手に持ってんのはなんだよ」 …… ブレイズが静かに手元を見る そこには、チョッパーの服 そういえば、何かをずっとつかんでいた感触はあった、と今更ながらに思い出す 「っぅあぁぁぁぁぁ!」 滅多に大声を出さないブレイズが、叫びながら握っていた服をチョッパーめがけて投げる ぼす、とくぐもった音を出しながらチョッパーの顔面に当たる 「オイなぁブービー。この仕打ちは酷くねぇか?仮にもお前さんの恋人の服だぜ?」 「やかましい!」 そう声を荒げるブレイズの顔は真っ赤になっている それは、恋人の服を抱きしめながら寝てしまった乙女のような自分に、怒りを覚えたせいかまたは恥か それとも、何野郎の服を抱きしめながら寝てやがるんだ俺は、と思ってこれまた怒りを覚えているせいかまたは恥か 「まぁ、そんなことよりブレイズ。服を貸してやったのと、その服ぶん投げて俺に当てた事についてはどう思ってるのかねぇ〜?」 「いや、それはっ」 今度はブレイズが慌てだす 形勢逆転。チョッパーがにやりと笑う 「当然、何かをしてくれるんだろうなぁ?」 「っ……」 チョッパーに詰め寄られ、自然とブレイズはまたソファーに寝そべるような体制になる これはヤバイ、とブレイズの頭の中には警報がなっているが、馬乗りになられて身動きが出来ない ブレイズがしまった、と思う前にチョッパーの手は服を脱がしにかかっていた 「ちょっと待て、チョッパー!」 「もう俺を止められねえぜ、今更」 「分かった、分かったから!……せめて部屋で、シろ」 恥ずかしそうに呟いたそれに、笑みを浮かべる 「ウィルコ、隊長」 |