隣で、裸になって寝ている金髪の男。そろそろ起床時間だと彼に告げるがなかなか起きない。肩を揺らすと普段の彼からは想像のつかない細い声で「もう無理……」というものだから、ピクシーはつい吹き出してしてしまった。 サイファーの機嫌が悪いと、どうもつっかかりにくくなる。サイファーやピクシーと同じ傭兵をしているクロウ1や2が言っていた。それは彼等だけではなく、サイファーの相棒であるピクシーにとっても同じだ。いつもは騒がしいあのクロウの3番機すらも同じ気持ちでいる。サイファーに何かやったんスか? とPJに言われてさあな、と答えた。 原因は自分にあるのだとわかっているピクシーは溜め息を吐くしかなかった。確かに昨夜の夜伽は激しかったかもしれないと思う。が、それについては反省する気はないのが本音だ。色気のある相棒が悪い、とピクシーは思うがそれは心の中で思うしかない。これ以上サイファーの機嫌を悪くしても何のメリットもない。むしろデメリットばかりだ。 機嫌の悪いピクシーの相棒は珍しく読書にふけっていた。読書が趣味なのはピクシーの方でサイファーが読書をするところは滅多に見ることはない。まるで他人と自分を隔絶するように読書にふけっている。時折前髪がうっとおしくなるのか片手を持ち上げて払いのける。目立った仕草はそれと、本をめくる動作だけだ。いつもならピクシーをからかう彼だが今回は元凶がピクシーであることもあり構うつもりはないようだ。 ああ、さてどうしようか、と本から目を離さない相棒を横目で見ながらコーヒーをすする。同じソファーに座ってはいるが、サイファーの眉間には見事に深い皺が刻まれている。どうやら朝のことをが相当恥ずかしかったようだ。あの出来事を笑いながら彼に話すと、流石に彼の男としての沽券に関わったのか顔を赤くして眉を吊り上げて「うるさい」と不機嫌になってしまった。昨夜は激しかったからな、という言葉は更に彼の神経を逆撫でしたようだった。 「サイファー」 「……」 これで無視されるのは何回目だろう、とピクシーは心の中でうなだれた。いつもの調子で絡んでくれないとなかなか調子が出ない。よお相棒、今日はお前が待ち望んでた晴れの日だぜ、ちょっとは笑えよ。 「サイファー」 「……なんだよ」 此れで最後にするか、と半場諦めながら呼んだ彼の名前にようやく返事がもらえた。一安心して安堵の息を吐く。返事をくれたということは少しは機嫌が直ってくれたのだろうかと、サイファーとの距離を少し縮める。サイファーは逃げる様子もないが、目線はやはり本に向けられたままだ。このままだと本に嫉妬しそうだと思う。嫉妬か柄にもないな、と思っていると次第にPJのことが思い出された。 PJが絡むとサイファーがPJを使って面白おかしく遊んでしまってなかなかこっちを見なくなるのだ。PJもPJで「いい加減にしてくださいよ」となどと言うが、顔には構ってくれて嬉しい、と出ている。まるで飼い主に遊んでもらっている犬のように。もちろん嫉妬を覚えても表に出すことでもないと押さえ込む。いい年した男が新米の男に怒るなんて阿呆らしい。 「悪かったと謝ればいいか?」 「……知るか」 サイファーは短く答えると、一度だけピクシーを見てバツの悪そうな顔をそらした。サイファーはサイファーで大人気ないことをしたのだろうと思っているのだろう。お互いいい大人で、互いに歩み寄ることも出来るのに自分は子供のように意地を張ってしまって恥ずかしい。そんな心情でいるのだ。 あのことが不快に思われたのも事実だ。しかしいつまでもこうしているわけにも行かない。彼らは同じチームだ。互いに僚機潰しといわれてはいるが、そんな2人としては珍しく息のあったチームだ。(サイファーが先を突っ走ることは多いが)いつまでも意志の疎通の取れないままでいるのはお互いに辛いだろう。ようやく得た気の合う相棒なのだから。 「……一発」 「ん?」 「一発殴らせろ」 そういってすかさず飛んできた飛んできた本と拳にピクシーはしかめっ面をしながらも、顔をゆるゆると笑みに変えていく。コーヒーが少し零れてしまったが、サイファーもすっきりした、と呟いて本を拾って閉じた。彼らしい行動にお互いの微妙な空気は元の通りに戻った。 「どうせだったら早く殴ればよかった」 「出来るならもっと穏便に済ませて欲しかったな」 「一発で許してやったんだぜ? それで満足できねえのかよ」 それにしても殴られたときの顔は情けなかったな、ピクちゃん。とからかうような笑みを浮かべている。自然とラリーにも笑顔が浮かんでくる。 「うるさいぞ、相棒」 「ちょっとくらい仕返しさせろ」 殴ったくせにちょっとじゃないだろ、この野郎。 |