日本はゆっくりと散歩をしていた。ただ無意味に散歩をするのがすきだからだ。 寒い冬を越えて春を迎えたのもつい先日のことだと思っていたのだが、いつの間にか暖かさを超えて暑さに変わっていた。しかしこの爽やかな季節が日本は好きだった。 いや、日本はどの季節も好きだ。春ならば花見、夏ならば夏祭り、秋ならば紅葉狩り、冬ならばお正月。四季さまざまな楽しみ方ができる。しかし季節の変わり目も悪いものでもない。 風邪などに気をつけなければならないのは少し大変でもあるが、其れを抜かせば結構気持ちのよいものだと思う。 晴れ渡る空には大きな鳥が悠々と飛び回り、青々と生い茂る木々の葉が太陽の光を全身に受けて光り輝いている。 にゃあという猫の声に日本は足を止めた。声のしたほうを見ると其処にはやはり猫が居た。黒い毛並みをもった猫だ。目は輝かしい金色をしている。 猫から近寄ってくるので日本が屈むみ撫でると、猫も心地よさそうにその行為を大人しく受けていた。 ふと後ろから気配を感じた、というより、後ろから影が差してきたのだ。日本がゆっくりと振り返ると、其処には黒髪の男――ギリシャがいた。体格のいい体をしているが、其処に威圧感はなくむしろおっとりとした雰囲気をしている。 彼の手には白い猫が居て、その猫は日本に挨拶するようににゃあと鳴いた。 「ギリシャさん」 「その猫、日本の……?」 「いえ、野良のようですね」 日本が立ち上がると猫は日本の足に擦り寄ってくる。どうやら日本になついたようだ。 かわいい、とギリシャが呟いてそのままその場に座り込む。そして猫の喉を撫でると猫は心地よいのかごろごろ声を鳴らして寝転んだ。無防備に腹を晒す猫をみて日本はその腹をうりうりと撫でると猫は心地よさそうに目を細めた。 ギリシャの腕から白い猫が飛び出して黒猫に近寄る。喧嘩するのだろうか、と少しヒヤヒヤしたがそんなことも無くともにじゃれあっていた。 「猫は可愛い……」 「えぇ本当に」 そんな会話をしながら通行人の邪魔にならないように猫ともども道端に移動して、再びじゃれあい始めた猫達を見つめる。 にゃうにゃうと鳴きあう猫達は可愛いことこの上なく、その愛らしさに2人の顔には自然と笑みが浮かんでいた。 「暑くなってきましたね」 「うん、でも……季節の変わり目は、なんとなく気持ちいい」 そういって草むらにゆっくりと寝転ぶ。ギリシャの言葉に日本は嬉しそうに目を細める。ギリシャが同じことを思っていてくれたことが嬉しかったからなのだ。好きな人と共感できることはとても嬉しいことだ。 日本とギリシャの間に色違いの猫達が寄ってくる。ギリシャが其れと戯れては笑顔を溢れさせる瞬間が心を暖かくする。 「日本も」 「はい?」 「日本も、寝転ぶと気持ちいい」 一緒に寝転ぼうといっているのだろう。日本はその誘いを断る理由も無くむしろ本当に気持ちよさそうだな、とその場に寝転んだ。日本が猫に手を伸ばすと、猫もじゃれてよってくる。 日本とギリシャが構っている間も2匹の猫は一緒に戯れている。 その様子に笑みを零していた2人。しかし本当に可愛いと思っていたのは猫ではなく、猫越しに見える互いの笑顔だ。 しばらく遊びあって橙色の光が多くなり始めた。夕暮れ時だ。昼は少し汗ばむような暑さだったが、日も暮れ始めると涼しくなり始める。 黒猫は日本の腕の中に。白猫はギリシャの腕の中に。 2人は道を仲良く肩を並べて歩いている。昼よりも短い影が斜めになって互いによりそうようにしている。 「つかれましたね」 「でも、楽しかった。日本と、一緒にいれたし……」 日本の頬が少し赤らんだようになる。それは夕日のせいでもあるが、一番の原因は一緒に歩くギリシャだろう。言葉が絶えた日本にギリシャはどうした、と尋ねてみるが日本はなんでもない、と答えるばかりだった。 「……ねぇ、ギリシャさん」 「?」 「今夜お泊りになられませんか? 猫達も今日はまだ離れたくはありませんでしょうし」 「……じゃあそうする」 |