「日本」 日本宅に招かれたイギリスは、「和」という独特の色に包まれた庭に日本と共にいた。 イギリスは縁側に座り、日本は庭に立っている。 イギリスが日本を呼べば彼はそれまで背を向けていた体を反転させて、はい?と返事をした。 ただ名前を呼びたかっただけだから、いやなんでもないと言えば、日本は首を傾げる。 その仕草が可愛らしくて、抱き締める事が出来たなら、いや手だけでも繋げたらと思った。 彼と出会ったきっかけは「友達が欲しかった」から。孤立を続けていたイギリスは、同じく友となるものを探していた日本に出会った。 話し合ってみれば、好感を抱き、更に話せばいい方向に話が向かっていた。 一度は雲行きが怪しくはなったが、今はこうして同盟を結んでいる。 その時はまだ、友達として日本をみていた。 だが、いつからだろうか。 いつのまにか日本に恋情を抱くようになった。 彼のほんの少しの動作で一喜一憂している自分がいる、とイギリスが気付いた頃には既に日本の虜となっていた。 好きなら好きと言えばいい。 だが、勇気が振り絞れず、または素直でない自分の性格のせいでこれまで言えず仕舞いだった。 そして今日も。 「イギリスさん、どうかしましたか?」 「え、あぁ……。なんでもない」 物思いに耽り、日本の呼び声が聞こえていなかったようだ。 先ほどからお呼びしているのですが、と日本は言った。 見つめてくる黒の瞳と、目に映る、風に煽られた黒の髪。 美しいと思う。 喩えるならばその瞳は黒耀石。喩えるならばその髪は烏の濡れ羽。 しかし比喩するしてはみるが、どこかしっくり来ない。其処まで美しく思えるのは、惚れた弱みなのだろう。 「具合いでも悪いのですか?」 「いや、少し考え事だ」 そう言ったあと、イギリスはくしゅん、とくしゃみをした。 「まだ3月とはいえ寒いですからね」 中に入りましょう、とイギリスに――正しくは家に近寄る。 日本が家に上がるときイギリスの隣を通り過ぎる。 それだけでも僅かながらに意識してしまうイギリスは、胸が跳ね上がるのが分かった。 「イギリスさん、」 中に入ろうと言うようにイギリスに話しかける日本に、あぁ、と返事を返してその場を立ち上がった。 「寒いので葛湯でもお持ちしましょう」 「葛湯?」 「葛粉から作った飲み物です。風邪の時には寒気を和らげたり喉の渇きを潤したりと、私の国では民間療法に使われています。風邪でなくとも普通においしい飲み物になりますから、私は好きですよ」 「日本が好むのなら、其れは楽しみだな」 葛湯を出すと言ったのは先程のくしゃみのことを思ってのことだろう。 よく気が回る日本だから自分だけにということはないだろうが、やはりそういう心遣いは嬉しいものだ。 特に自分ひとりが独占しているとなれば。 手が寒いのか日本が口元に手を寄せてはぁ、と息を吹きかけている。 その手は日本が用意する葛湯で温められることだろう。 次に機会があれば自分の紅茶でその手を、いや寒いのは全身だろうからその体を温めようとそのいつかの日に思いを馳せた。 |